
近年、ニュースなどで「サイバー攻撃」という言葉を聞く機会が増えています。企業や政府機関が狙われ、重要なデータが盗まれたり、システムが使えなくなったりする被害が続出しています。このような脅威から国や私たちの生活を守るために、日本政府は「能動的サイバー防御」を強化する方針を打ち出しました。
しかし、「能動的サイバー防御」と聞いてもピンとこない方も多いのではないでしょうか?今回は、この対策が何を意味するのか、なぜ必要なのかを、専門知識がなくてもなるべく理解できるようにわかりやすく解説していきます。
能動的サイバー防御とは?

能動的サイバー防御とは、サイバー攻撃が発生する前に、攻撃の兆候をつかみ、先回りして対処する方法のことです。
これまでのサイバー防御は、攻撃を受けてから対応する「受け身」の対策が中心でした。しかし、最近では攻撃手口が巧妙化し、発生してから対処するのでは間に合わないケースが増えています。そこで、日本政府は「攻撃を受ける前に阻止する」ことを目的とした能動的サイバー防御の導入を進めているのです。
例えば、以下のような対策が考えられます。
これにより、被害が発生する前に攻撃を未然に防ぐことが可能になります。
なぜ日本政府が能動的サイバー防御に力を入れるのか?
能動的サイバー防御が注目される背景には、サイバー攻撃の急増と、その影響の深刻化があります。
① 重要インフラへの攻撃が増加
サイバー攻撃は、単に個人情報を盗むだけでなく、電力、通信、交通、金融などの重要インフラを標的とするケースが増えています。もし大規模な攻撃で電力会社のシステムがダウンすると、停電が発生し、病院や公共交通機関などが大混乱に陥る可能性があります。
② 国家ぐるみのサイバー攻撃
最近では、外国の政府が関与するサイバー攻撃も増えています。例えば、2022年にロシアがウクライナに対して軍事侵攻を開始した際、ウクライナの通信インフラがハッキングされ、大規模な被害が発生しました。こうした攻撃は、戦争や国際関係にも影響を与えるほど深刻な問題となっています。
③ 日本も狙われている
日本国内でも、政府機関や大企業へのサイバー攻撃が後を絶ちません。2023年には、日本の防衛関連企業が外国のハッカーグループによる攻撃を受けたと報じられました。さらに、国内の金融機関や自治体がランサムウェア(データを人質に取る攻撃)によって被害を受けるケースも増えています。
▼ 先日発生した石破首相の公式ホームページへのDDos攻撃について🔗

このような背景から、政府は「受け身の対応では間に合わない」と判断し、能動的サイバー防御の導入を進めているのです。
日本政府の能動的サイバー防御法案とは?
政府は2025年2月、「サイバー対処能力強化法案」を閣議決定し、国会に提出しました。この法案には、次のような内容が含まれています。
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① 政府と民間の連携強化
重要インフラ(電力、通信、交通など)の企業に対し、サイバー攻撃を受けた際の報告を義務付けることで、政府と企業が協力して対策を講じやすくなります。
② 通信情報の収集・分析
サイバー攻撃の兆候を把握するために、政府が通信情報を収集・分析できる仕組みを整備します。ただし、プライバシーを守るため、個人のメール内容や通話内容は対象外とされます。
③ 攻撃元の無力化
攻撃が差し迫っている場合、政府が攻撃元のサーバーに侵入し、マルウェアを無効化するなどの措置を取ることができるようになります。
④ 監視機関の設置
政府の権限が過剰にならないよう、独立した監視機関を設置し、運用をチェックします。
能動的サイバー防御法案に対して賛成・反対の意見は?
能動的サイバー防御法案には、さまざまな意見があります。
✅ 賛成派の意見
- 「今のままでは日本は無防備すぎる」
サイバー攻撃が深刻化する中、受け身の対策では対応できないため、積極的な防御策が必要だという意見。 - 「海外でも同様の対策が進んでいる」
アメリカやイギリスでは、すでに政府が攻撃元に対して対策を行う仕組みが導入されている。
❌ 反対派の意見
- 「プライバシーが侵害されるのでは?」
通信情報の収集が行われることで、一般市民のプライバシーが侵害されるリスクがあるとの懸念。 - 「政府の権限が強くなりすぎる」
攻撃元のサーバーに侵入する行為が、政府による過剰な介入につながるのではないか、という指摘。
政府は、監視機関の設置や情報収集の範囲を限定することで、こうした懸念に対応するとしています。
今後の見通しと私たちの暮らしへの影響は?
この法案は、現在国会で審議中であり、成立すれば2027年までに運用が開始される見込みです。今後、サイバー防御の強化が進むことで、日本全体の安全性が向上する可能性があります。
しかし、プライバシーや政府の権限のあり方についても議論が必要です。私たち一人ひとりも、サイバーセキュリティに関心を持ち、どういう対策が適切なのかを考えることが重要です。
まとめ
サイバー攻撃は、今や国家レベルの安全保障問題となり、政府が積極的な防御策を講じる時代に入りました。能動的サイバー防御の導入により、サイバー攻撃のリスクを減らし、日本の安全を守るための仕組みが強化されることが期待されます。
しかし、その一方で、プライバシーの保護や政府の権限の適正な運用も慎重に考えなければなりません。国民の安心・安全を確保しながら、どのようにサイバー攻撃に対処していくべきか、今後も議論が続くでしょう。
私たち一人ひとりも、インターネットを利用する上で、サイバーセキュリティの意識を高めることが重要です。「強い国をつくるためのサイバー防御」と「個人の権利を守るバランス」をどう取るべきか、ニュースや政府の動向を注視しながら、考えていきましょう。
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