
サイバー攻撃と聞くと、自分とは無関係だと思っていませんか?しかし最近は、企業や組織だけでなく、一般の人も巻き込まれる「標的型攻撃メール」が増えています。
この記事では、標的型攻撃メールの特徴や迷惑メールとの違い、実際にあった被害事例、攻撃の手口、今すぐできる対策を、ITに詳しくない方にもなるべくわかるように解説します。
1. 標的型攻撃メールとは?その特徴と注意点を解説

標的型攻撃メールとは、特定の企業や個人を狙って送られるサイバー攻撃の一種です。攻撃者は事前に相手の情報を集め、業務に関連するような巧妙な内容でメールを装い、開封やクリックを誘います。
添付ファイルやリンクを通じてマルウェアを感染させるケースが多く、情報漏えいや不正アクセスの原因になります。攻撃に気づきにくく、対応が遅れることもあるため、日頃の注意と対策が重要です。
標的型攻撃メールには以下のような特徴があります。
- 検出されにくいマルウェアが使われることが多く、ウイルス対策ソフトでも見逃されやすい。
- 攻撃対象がごく一部であるため、発見が遅れやすく、対策が後手に回りがち。
- 信頼できる送信者を装うため、受信者が違和感を覚えにくく、開封・クリックされやすい。
1.1 迷惑メールとどう違う?標的型攻撃メールの見分け方
迷惑メールは、不特定多数に一斉送信される広告や詐欺のようなメールです。一方、標的型攻撃メールは、特定の組織や人物を狙って、もっともらしい内容で送りつけられます。細かい違いは以下のとおりです。
| 標的型攻撃メール | 迷惑メール | |
|---|---|---|
| ターゲット | 特定の企業・組織 | 不特定多数 |
| 送信者 | 実在の組織や人物になりすまし | 見知らぬ送信者 |
| メールの話題 | 仕事や業務に関連する具体的な内容 | 誰でも関係ありそうな内容 |
| ウイルス対策ソフトでの検知 | 難しい(発見が遅れる) | 比較的容易(多くの人が受信するため) |
2. 実際にあった標的型攻撃メールの被害事例を紹介
ここでは、実際に起きた標的型攻撃メールによる被害事例を紹介します。
2.1 東京大学の事例
2023年10月、東京大学は標的型攻撃メールにより、教員のPCがウイルスに感染したと発表しました。攻撃は2022年7月に実在する組織の担当者を装った「講演依頼メール」から始まりました。
教員が日程調整のためにURLをクリックしたことで、マルウェアに感染。その後、攻撃者から「講演は中止になった」と連絡があり、被害に気付かないままでした。結果的に、学生や教職員の個人情報など4,341件が流出した可能性があります。
引用元:IPA 情報セキュリティ10大脅威 2024 解説書
2.2 JAXAの事例
2023年11月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、管理サーバーへの不正アクセスが確認されたと発表しました。これは、修正済みだったネットワーク機器の脆弱性を突いたもので、外部機関からの通報により判明しました。
幸いにも機微情報の流出はありませんでしたが、標的型攻撃の可能性が高く、組織のセキュリティ意識が問われる出来事となりました。
引用元:IPA 情報セキュリティ10大脅威 2024 解説書
3. こんな手口に注意!標的型攻撃メールの主な種類
標的型攻撃メールにはいくつかの手口があります。ここでは代表的な4つの手法を紹介します。
3.1 やり取り型攻撃
メールのやり取りを重ねながら、あたかも実在の関係者であるかのように装って信頼関係を築き、あるタイミングでマルウェア付きのファイルや不正なリンクを含んだメールを送りつける手口です。
攻撃者は過去のメール履歴や社内の事情を事前に調べ上げ、自然な文脈で攻撃を仕掛けてくるため、気づかずに開封してしまうことが多くあります。こうしたやり取り型攻撃は、標的との複数回のメールを通じて信頼を得るため、一般的なフィッシングメールよりも高度で見抜きにくいのが特徴です
3.2 APT(Advanced Persistent Threat)
APT(高度標的型攻撃)は、一度標的のネットワークに侵入すると、長期間にわたり潜伏しながら情報を盗み続けるサイバー攻撃です。攻撃者はステルス性の高いマルウェアやゼロデイ脆弱性を活用し、ネットワーク内を慎重に移動しながら機密情報を収集します。
国家レベルの攻撃組織が関与することもあり、企業や政府機関、研究機関などが主な標的とされています。攻撃の痕跡を最小限に抑えるため、検知や対応が非常に困難であり、被害が発覚するまでに長い時間を要する場合もあります。
▼ ゼロデイ脆弱性についてはこちらから🔗

3.3 水飲み場型攻撃
水飲み場型攻撃は、特定の業界関係者がよく訪れるWebサイトにマルウェアを仕込んでおき、訪問したターゲットを自動的に感染させる手法です。たとえば、業界団体の公式サイトや業務関連のツール配布ページなどに細工が施され、信頼してアクセスしたユーザーが被害に遭うケースがあります。
この手法は、標的が自らメールを開かなくても感染させることができるため、非常に悪質かつ効果的です。また、標的型攻撃メールと組み合わせて、該当サイトに誘導するケースも報告されています。
▼ マルウェアについてはこちらから🔗

3.4 BEC(Business Email Compromise)
BECは「ビジネスメール詐欺」とも呼ばれ、企業内の経理担当者や管理職などに対して、取引先や上司になりすましてメールを送り、送金を促す詐欺の手口です。多くの場合、メールの差出人名やドメイン名を巧妙に偽装しており、受信者が本物と見分けがつかないほど自然なメールが送られてきます。
請求書や契約書の偽装も伴うケースがあり、実際に送金されてしまうと被害額が数百万円から数千万円に及ぶこともあります。特に海外送金を伴う場合は、資金の追跡や回収が困難になるため、注意が必要です。
4. 今日からできる標的型攻撃メールの対策方法
最後に、標的型攻撃メールへの対策を紹介します。特別なツールを使わなくても、日常のちょっとした注意で被害を防ぐことが可能です。社内での意識共有や報告体制も、重要なポイントになります。
4.1 標的型攻撃メールを開かないためのポイント
件名や本文に違和感を覚えた場合は、メールを開封しないことが基本です。
不自然な日本語、無理にカタカナ語を使った表現、業務内容と関係のない話題など、少しでも「おかしい」と感じたら注意が必要です。また、過去にやり取りのある送信者名であっても、なりすましの可能性があるため、怪しいと感じたら送信者に電話などで直接確認するようにしましょう。
冷静に対応することが、被害を未然に防ぐ鍵となります。
4.2 標的型攻撃メールを開かせないための社内対策
組織としての対策も欠かせません。従業員に対して定期的なセキュリティ教育を実施し、標的型攻撃メールの手口や見分け方について学ぶ機会を設けましょう。
加えて、不審なメールを受信した際には、すぐにシステム管理者に報告する仕組みを整備することが大切です。仮に攻撃が確認された場合には、社内メッセージや掲示板などを活用して、全社員に向けて速やかに注意喚起を行うことで、被害の拡大を防ぐことができます。
4.3 メール開封後に標的型攻撃メールと気づいた場合の対応
万が一、標的型攻撃メールを開封してしまっても、冷静な行動が被害拡大を防ぎます。まず、添付ファイルは決して開かず、本文中のURLもクリックしないようにしてください。
その後、自身がどのような操作を行ったか(開封のみか、リンククリックや添付ファイルの実行など)を正確に記録し、速やかにシステム管理者へ報告しましょう。管理者の指示を仰ぎ、必要に応じて端末の隔離やネットワークからの切断などの処置を行うことで、被害の拡散を防ぐことができます。
まとめ
この記事では、標的型攻撃メールの特徴や迷惑メールとの違い、実際にあった被害事例、攻撃の手口、今すぐできる対策を紹介しました。
標的型攻撃メールは誰もがターゲットになり得る、非常に巧妙なサイバー攻撃です。迷惑メールとの違いを理解し、実際の事例や手口を知ることで、少しずつ防御力を高めることができます。
まずは「怪しいと思ったら開かない」「報告する」という基本行動を徹底することが、被害を防ぐ第一歩です。






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